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ここ美作の国にまつわるお酒の話や町の話題・蔵人のないしょ話・蔵からのメッセージなど、エッセイ風に皆様にお届けしていきます。
その五十五(2005年3月1日)


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地酒のおいしさをおまんじゅうに

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 一年中で最も寒い1月、2月は、いわずもがな酒の仕込みの最盛期。蔵の煙突からは米を蒸す蒸気がたちのぼり、昼夜問わずの作業に追われる蔵人たちで、蔵の中は活気を呈す。蔵の前を通りすぎるだけで、もろみのいい香りが鼻をかすめる。

 江戸時代から営々と続くそんな酒蔵を過ぎると、「前田製菓」と看板をあげた小さなお菓子屋さんが目にとまる。店先には濃紺の大振りなのれん。「酒まんじゅう」と小さく端に染め抜いてある。

 訪れる客のほとんどは、この店の名物「酒まんじゅう」がお目当てだ。毎朝その日の分だけを手作りして店に並べるので、いつもできたての美味しさが味わえる。セロファンに残る小さな水滴が「蒸したて」のしるし。かすかに残る温かさと、好きなだけバラ売りしてくれる昔ながらの商いにどこかほっとするものを感じ、ここまで買いに来た甲斐をほんの少し噛みしめる。

 ショーケースに並んだ1コ75円のそのおまんじゅうをさっそくほおばる。さっき蔵の前で鼻先をかすめたそのまんまの上質な酒の香りがふわっと口の中に広がる。
「うちのおまんじゅうは、それこそお酒をどっくどっくと飲んでくれますからね…」。
そう話すのは、普段店を切り盛りしている3代目のお嫁さん、好江さんだ。

水を一切つかわず、酒かすとほんの少しの山芋、そして御前酒「美作」を惜しげもなくたっぷりと飲ませて(!)ふかした生地は、実に贅沢で上品で風味。最近は、香りだけを抽出した「酒のもと」なる製菓材料を使って作るところも多いらしいが、それではこの味はでないらしい。日本酒のコクそのものが生きてこその酒まんじゅうだ。中のこしあんも、一番上等な餡にこだわって、グラニュー糖で甘みをつけている。あと口がとてもいいので、子どもも大人も、ついつい3つ4つと手が伸びてしまうのだ。


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昭和初期から続く昔ながらの菓子店

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 店の創業は戦前で、当時はあめ玉や羊羹、ゆべしなどいわゆる「昔菓子」をこしらえていた。初代のおじいちゃんは、それこそ昔ながらの職人気質で、たいそう気丈夫な人だったという。好江さんは、嫁いでからこのおじいちゃんの傍らで、菓子づくりを見て学んだそうだ。

「酒まんじゅう」は、いまや押しも押されぬ勝山の銘菓だが、作り始めるようになったのは今から約20年前。米子おばあちゃんの代になってから、好江さんと二人で試行錯誤の末に生み出した、いうなれば新製品である。

 隣りに蔵を構える御前酒の当主から「酒まんじゅうを作ってみてはどうか」と直々に声をかけられたのがそもそものきっかけ。「素人にそんなことが…」と、一旦は断ったそうだが、せっかくの話だからやってみようと、さっそく試行錯誤の日々が始まった。

「ほんとにずぶの素人だったんですから…、それこそ大変で」と米子おばあちゃんと好江さんが申し合わせたように何度も口を揃える。同じ苦労を分かちあっている者同士、なんだか息もぴったりだ。

「(おまんじゅうが)ふててしまって、なかなかうまいこといかんでね」。米子おばあちゃんは苦労をそんな風に言葉にする。ちなみに「ふてる」とは、機嫌を悪くするという意味の岡山弁。その日のおまんじゅうの顔色を見ながら、素材の声を聞き、季節やその日の気温に応じて分量や使い方を加減する。そんな勘もすっかり身についたけれど、それでも毎日まったく同じようにはいかないのが難しいところだという。



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試行錯誤の末にようやく完成

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 当時、大阪で菓子屋を営んでいたという先代の親戚筋や卸問屋さんからも助言を仰ぎ、いろいろと手ほどきを受け、その後ようやく試作品が完成。出来上がったおまんじゅうをバットに入れて蔵の当主の元へ駆けつけた日のことを、二人はまるで昨日のことのように懐かしむ。

「蔵のみなさんが食べてくださって、これならいけるんじゃないかって。目の高い人にそう言ってもらえて、なんとかできたんですよ」。
 その土地の風土に根づいた地酒を醸し続ける蔵の傍らで、その酒を使って毎日おいしいおまんじゅうを作るささやかなお菓子屋さんがある。この町は、そんな風に住まい手同士がこんな風に連動しながら互いの役割を発揮しているようにみえる。

 店の奥でとびきりのお茶をごちそうになりながらおまんじゅうをいただいている私の横で、「お酒がいいから美味しいのよ」。好江さんが自信たっぷりに笑ってみせた。






2005年3月1日


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