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ここ美作の国にまつわるお酒の話や町の話題・蔵人のないしょ話・蔵からのメッセージなど、エッセイ風に皆様にお届けしていきます。

その三十五(2003年5月1日)




 花見の頃はとうに過ぎたものの、散った後もその余韻に浸れるのが桜の妙。
 まだ少し寒さが残る4月上旬、美作の春を求めて、桜めぐりに出かけてみました。


▲落合町の「醍醐桜」

 日本人にとって、あまりにも馴染みが深く、見過ごす事のできない花、「桜」。
毎年、花の季節が巡ってくると、心なしかワクワクしてくる。
 子どもの頃は、さほどうれしい事がらでもなかったのか、どうして大人は春になると桜のことばかりを話題にするのか、不思議な気がした。
 歳を重ねるにつれ、季節のうつりかわりに敏感になるのか、陽射しのぬくもりや風の匂い、土の感触やせせらぎの音…、そんな自然の変化に、新鮮な感動を覚えてしまう。

 とりわけ、冬から春への変わり目は劇的だ。草花が芽吹き、虫が動き、あらゆる生命がいっせいに伸び上がってくる。少しづつ春の舞台準備が整っていき、やがて主役の桜の登場まで、日一日とカウントダウンが始まる…。春を実感する最も楽しい瞬間だ。

▲新・日本名木百選にも選ばれた樹齢千年の堂々たる「醍醐桜」

 岡山県北の勝山周辺では、4月の上旬を過ぎた頃から、ちらほらと桜だよりが聞かれるようになる。
町内には、県下2番目の大樹で知られる「岩井畝の大桜」があるほか、隣接する落合町には、新・日本名木百選にも選ばれた樹齢千年の堂々たる「醍醐桜」が控えている。そのほか、久世町の旭川河川敷に咲き乱れる「トンネル桜」、鳥取県との県境、新庄村の「がいせん桜」など、桜の名所、それも名だたるところが多い。

 中でも醍醐桜は、丘の上にそびえる一本桜の代表格。周囲にはさえぎるものがなにもなく、その風格は、まさに「孤高」の名にふさわしい。
 昨年NHK大河ドラマ「武蔵」のロケが行われたことでも話題になり、息をのむような満開の桜の丘に、少年武蔵がたたずんでいたシーンを、ブラウン管でご記憶の方も多いだろう。

 昨年あれだけ見事な花を咲かせた巨木だが、今年は残念ながら花つきが悪く、満開を少し過ぎて訪れた時には、こころなしか体力を使い果たしているようにもみえた。それでも、目通り周囲7.1m、高さ18mというそのスケールを前にすると、一瞬言葉を失ってしまう。千年という気の遠くなるような時間を生き抜いてきたいのちの大きさにただただ圧倒されるばかりである。

▲岩井畝の大桜 ▲久世町トンネル桜

 桜の名所には、昔から花の盛りを演出する「花守」という役目の人がちゃんといたようだ。一年間桜の樹を手塩にかけて世話をして、それでいて主役になれない人々で、とりわけ風流人でもあったらしい。
 醍醐桜も、地元吉念寺の保存会の人々が大切に守り継いできたと聞く。シーズンになると、途中の道案内や駐車場の交通整理はもちろん、丘の入り口にある休憩所に地元の山菜や手作りの加工品を並べ、訪れる人を出迎えてくれる。

 この老樹は過去に、樹医で知られる故山野忠彦氏によって幹の外科手術がなされ、その後も、樹勢回復のための保護柵の拡張や土壌改良などさまざまな手当てが施されてきた。美しい桜の花びらのかたわらには、いつの時代にも、そんな花守さんたち多くの人々の献身があるのだと思うと、なんだか頭が下がる思いがする。

 醍醐桜から車で10分ほど山道を駆け上がると、静かな集落の中に、そこだけふわっと薄紅をまいたように、一本の里桜が目に飛び込んでくる。「岩井畝の大桜」で知られるこの樹は、醍醐桜と同じアズマヒガン種。並んで立つ椿の花とは対照的に、雨に濡れた桜の花びらはなんともはかなげで、清楚な美しさが印象的だった。


 久世町に抜けると今度は、もやのたなびく素朴な里山の風景が一変し、桜もどこか人なつっこい。国道181号線を走っていると、旭川に沿ってあでやかな桜並木の風景が広がる。「トンネル桜」の名で親しまれるこの花堤は、地元の人々の憩いの場所。酒を交わしお弁当を広げる陽気なお花見スポットだ。

 こうして何カ所もの桜を見て歩くと、桜にもさまざまな表情があるのがわかる。どの桜を見るかによって、心持ちもがらりと変わる。
 一本桜の凛としたたたずまいは、染み入るような精神的静けさを感じさせてくれ、逆に桜並木は、心を開放し華やかな気分にしてくれる。車の中から通りすがりに幾度となく浮かんでは消えた山桜の風情にも、心ひかれるものがあった。

 日本人の根っこにある桜への想い…。
先人たちのその皮膚感覚というか、感受性ははかりしれないほどに豊かだ。来年もいろいろな桜を見てみたい。桜を愛でることのできる民族でよかった…、そんな心に残る風景にたくさん出会えたらいいな、と思う。

2003年5月1日


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