西蔵
トピックス 美作の国から ショッピング 炭屋彌兵衛 蔵元案内
トピックス > イベント情報 | イベントカレンダー
美作の国から > のれんの向こうがわ | 勝山のれんマップ | 勝山グルメマップ | お泊まりはこちら
ショッピング > ご注文方法 | 商品一覧 | メールマガジン
炭屋彌兵衛 > 炭屋彌兵衛の飲める店(中国地方)
蔵元案内 > 蔵元概要 | アクセス


 





ここ美作の国にまつわるお酒の話や町の話題・蔵人のないしょ話・蔵からのメッセージなど、エッセイ風に皆様にお届けしていきます。

その三十六(2003年6月1日)




 岡山県北の美作地方は、珍しい山野草が数多く自生する自然の宝庫。その可憐な姿に
 
会いに、地元勝山の森を散策してきました。


  山野草と一口に言っても、せり、なずな…あたりは多少馴染みがあるものの、「じゃあ、一人静ってどんな花?」と聞かれると、さて、答えられない。
 バラやチューリップ、ガーベラにフリージアと、即座に浮かぶ花の名前といえば外来種ばかり。日本古来の草花はもちろん、その辺の道ばたに生えている身近な雑草でさえ、案外知らないという事実に驚いてしまう。

「今、守るべき貴重な山野草は国内で2000種類あるといわれていて、そのうちの3分の1の600種類くらいが中国地方に生息してるんですよ。さらにそのうちの3分の2は真庭郡(岡山県美作地方)にあるといわれてるから、勝山はまさに山野草の宝庫ってところかな?」

そう話すのは、「山野草大好きおじさん」こと栗田雅文さん。勝山に暮らし始めて25年。3年前から山野草の美しさに魅せられて、今では毎朝ひとりで山にでかけ、お気に入りのコースを歩くのが日課になっている。

 町の総面積の85%を山林が占める勝山は、そこかしこで豊かな自然を体感できる。4月〜6月のこの季節は、ちょうど春の山野草の開花時期。淡く可憐な花が野山を彩る。


▲オドリコソウ ▲十二単衣

 さっそく、5月のとある雨上がりの午前中、栗田さんの案内で、おすすめの「チゴユリ」を見に森に出かけた。植物オンチの私にとっては、野草を見て歩くこと自体非日常体験。まさに「グリーンツーリズム」気分だ。
 保存地区から10分ほど車を走らせると、「勝山美しい森」の入り口に到着。周辺一帯は野猿の生息地として全国的に知られる神庭の滝自然公園になっている。
 雨上がりの森は少し肌寒く、洗いたての空気に鮮やかな緑がぱっと映えて、実に清々しい。まるで浄化装置の中にいるように、感覚が研ぎ澄まされていく。

 私のような素人は、車道から少し奥に入った木陰や薮の中でひっそりと咲く花はなかなかすぐには発見できない。
そこへいくと、栗田さんはさすがに心得たもので、なにげなく移動しながら「あそこにあるのが、オドリコソウで、これが十二単衣、こっちの紫のはラショウモンカズラ・・・」と次々に花を見つけていく。

 チゴユリはここからさらに別のルートをたどり、登山道の入り口で発見。「これこれ」と栗田さんに教えられて、やっと気づくほどの小さな花。その透明で汚れのない白さは、まさに「稚児百合」の名の通りの愛らしさだ。

▲ラショウモンカズラ ▲チゴユリ ▲山野草案内人の栗田さん

 栗田さんいわく、このあたり一帯は、花崗岩質と石灰岩質の両方が重なりあった独特の地形ということもあり、珍しい品種が多いのだそうだ。
「でも、たまに心ない人が、珍しいからといって根こそぎ持っていっちゃうんだよね。家に持って帰って移植しても育たないことが多いんだけど」
 山野草はもともととてもデリケートだ。色も淡く清楚ではかない。栗田さんは、観察のために採取したりはせず、咲いている風情をその場で楽しむスタイル。それぞれの個性で、自然の中でありのままに咲いている姿や表情に魅力を感じ、見ていて飽きることがないという。

 けれど一方で、近年地域によっては、土地開発で他所から土砂が大量に運び込まれ、在来の草花が、紛れ込んだ強い外来種に駆逐されるという事態も起きている。豊かな森も、無理な伐採を続けたり、枝打ちをせず放置したままにすると、たちどころに植生が変わってしまう。山野草にとっての環境も、人間が理解し守っていかなければどんどん厳しいものになっていくばかりだ。

 そんなこともあってか、栗田さんは、翌年また同じ時期に同じ場所で、同じ花が元気に顔をだしているのを見るとなんだかほっとするそうだ。
「毎朝、山を歩くと四季おりおりの自然の巡りをほんとに肌で実感できますよ。秋の紅葉の森なんてそれこそ感動的」
こんな素晴らしい自然が身近にあったのに、これまでは仕事仕事で、気がつくのが遅すぎたと栗田さんは笑う。
山野草に親しむようになってからというもの、自然を感じる心の余裕ができ、人とのつながりもずいぶんと広がったそうだ。

▲栗田さんのお店「cafeてぁ」店内 ▲カノコソウ ▲キケマン

 この5月、栗田さんは長年勤め上げた会社を退職して、パスタとギャラリーをメインにした小さなカフェをオープンさせた。
それまで営業の第一線で走り続けてきた毎日。50歳という年齢の節目を迎え、生き方にも変化が訪れた。
「足元の草に語りかけているうちに、あくせくしないで、自然のサイクルに身をまかせながらゆったりと歩く生き方を教えられたのかな」
 店の内装も栗田さんの手づくり。夜はゆっくりくつろいでお酒をかたむけてほしいと、照明にも工夫を凝らした。テーブルには大好きな山野草や苔玉がさりげなくあしらわれ、栗田さんの思いがいっぱいにつまった居心地のいい空間になっている。

 歩き疲れたら、道ばたの小さな草に目をやって少しだけ元気をもらおう。人目につかないところで凛と咲き誇っている可憐な山野草の姿を見て、私も大切な何かを教えられたような気がした。

2003年6月1日


のれんの向こうがわのバックナンバーはこちら

 
 

HOME | 美作の国から | ショッピング | 炭屋彌兵衛 | 蔵元案内 | アクセス