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ここ美作の国にまつわるお酒の話や町の話題・蔵人のないしょ話・蔵からのメッセージなど、エッセイ風に皆様にお届けしていきます。

その三十八(2003年8月1日)


    
 梅雨が明けると、いよいよ本格的な夏の到来。保存地区へ向かう橋の上から川を眺めると、
ふりそそぐ太陽に水面がきらきらと照り映えて美しい。四季を通じて、とうとうと水をたたえる旭川。
この川の流れを見ていると、あらためてこの町の水の豊かさに圧倒される。


勝山にとって、川はいのちそのものだ。

海上交通の要所として栄え、中世から近世にかけて、物資や旅人を運ぶ高瀬舟で賑わった。町の裏手には発着場の石畳が続き、往時の面影を伝えている。

そして今でも、町の人たちは美しい川を守り、そこに寄り添って暮らしている。家と家との間の細い路地を抜けると、すぐそこに川が開ける。大人たちはここで釣り糸をたれ、子どもたちは水遊びに興じる。晴れた日には、石畳みの上に、洗濯物のたなびくのどかな光景が広がる。

保存地区の通りに沿って、旭川から取水された用水が流れている。今でもこの一画を囲って、鯉を飼う人もいる。

町の東側を流れるこの用水は、もともとは、東部の原方地区の農業用水として使用されていたものらしいが、驚くことに、この水路、なんと何軒かの屋敷の中を通り抜けている。家の中に川?と一瞬目を疑ってしまったが、これこそが昔の人の知恵。野菜を洗ったり水を汲んだりと、生活用水としてちゃっかり利用していたようだ。
 



水路を取り入れた風流な中庭 旭川沿いにたたずむ御前酒蔵元


保存地区にある食事どころ「郷宿」は、かつて、勝山藩の定宿だった由緒ある建物。この建物の中を水路が通っていると聞き、さっそく訪ねてみることにした。

案内してくださったのはご主人の兵江康男さん。もともとは隣の町内で店を開いていたが、平成6年に町民センター建設でここに引っ越してきた。長年の腕を生かし、自慢の天ぷらやアユ料理で客をもてなしている。

二間続きの座敷の奥に中庭があり、渡り廊下の下を用水が流れている。ぬれ縁に立つと端正な庭からせせらぎの音が聞こえ、なんとも涼しげだ。

「ついこないだまでホタルが飛んでました。サワガニが上がってきたりするので、小さなお客さんには喜ばれますが、実際は虫が入ってきたりでどねーにも…」と苦笑い。訪れる客にとっては、まるでオアシスのような美しい自然の空間だが、生活する側にとっては、水の音がうるさすぎて眠れないなど、不便なことも多いらしい。

築200年の時を刻む建物は、町並み保存事業の一環で町が譲り受けて修復。刀掛けや天秤棒など、宿として使われていたころの道具が今なお残る。

二階は、予約客のための板間で、ここは知る人ぞ知る穴場になっている。むき出した天井の梁やあたたかな蔵の雰囲気がいいと、京阪神からわざわざ足を運ぶ常連客もいるそうだ。

スイッチひとつの便利さに慣れてしまうと、季節の微妙な変化にも疎くなり、川や水といった天然資源へのありがたみも薄らいでいく。

「建物の古いたたずまいを生かすのに当初はクーラーもつけられんで…」とご主人はちょっぴり不服そうだったが、ここでなければ味わえない味覚と風情は、やはりなにものにも代えがたい魅力だ。

透明な川の水とせせらぎの音をすぐそばに感じられる生活…。自然を取り入れたこんな仕掛けを目の当たりにして、この町と川との結びつきを、いっそう強く心に思った。


▲ご主人の兵江さん。毎朝3時には起きて店に出勤(!?)してくるのだそう。一番にだしをとり、近くの畑でその日使う野菜を採りに行く。 ▲用水路は、なんと御前酒蔵元、辻本店の醸造場の裏をこんな形で通っていた。予期せぬ光景とはまさにこのこと。まるで異空間そのものだ。「小さい頃は秘密基地みたいにしてよく遊んでました」と、蔵人でもある辻麻衣子さん。

2003年8月1日


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