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ここ美作の国にまつわるお酒の話や町の話題・蔵人のないしょ話・蔵からのメッセージなど、エッセイ風に皆様にお届けしていきます。
その四十八(2004年7月1日)

▲保存地区の真ん中に位置するしょうゆ蔵

「歴史と日常が共存する」 勝山ブランド

 台風一過で、さわやかな夏空が広がる6月のとある日。白昼ののんびりした空気の中、いつものように保存地区を歩いてみる。
途中、永い間崩れ落ちたままになっていた石段の参道が、かつての面影を再現する形で蘇っていた。所有する寺の事情で戦後ふさがれてしまって以来、今日までそのままになっていた場所である。
 この参道の途中に、来年交流体験工房として再生され、勝山の新たな地域ブランドの発信拠点となる古い「しょうゆ蔵」がある。明治時代に建てられた4棟からなる建物は、20年前に廃業され老朽がかなり進んでいるものの、城下町勝山を知るには充分な姿を留めている。朽ちてもなお美しい、懐かしい存在感がある。

「今の心境としては、ここまで長くかかったなという感じです」。勝山をこよなく愛し、町づくりのキーパーソンとして第一線で機動力を発揮してきた辻均一郎氏(御前酒蔵元「辻本店」社長)は、町並み再生の経緯をそんなふうに振り返る。建物の価値や保存状態をみる調査活動も終わり、この夏にも再生に向けた修復工事が始まる予定だ。

「しょうゆ蔵構想」が具体的に始動したのは、4年前の2000年8月。地元の民間企業人ら10名からなる「NPO21世紀の真庭塾」が、町の旧家が所有し現在使われていないこのしょうゆ蔵の再利用計画を町にもちかけた。辻氏はこの会の町並み部会長をつとめる。
「このしょうゆ蔵は子どもの頃からお気に入りの場所でした。高台にあるので眺望がいい。ここから勝山の町並みと旭川を一望に見渡せるよう建物2階には回廊を設けます。ここで酒を飲んだらそれこそうまいですよ」。
 設計には、ギャラリーや工房などミュージアムとしての機能だけでなく、アーティストや利用客らが自由に参加し交流が楽しめるよう「食」のスペースも充実させた。本格的な厨房を備えたホールのデザインは、辻氏自身の思いがちりばめられている。


▲約2000平方メートルの敷地と建物を舞台に、木工と建築、音楽と演劇、地酒と地元食材のコラボレーション、地域の伝統工芸と職人文化の復興などと連動し、人と人、人とものとが自由に交感できる場をめざす。

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地域が育てる交流体験工房へ
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 今、行政主導型で各地に建設された美術館や博物館の中には「経済効果」だけを目的にするあまり、本来の機能を見失い運営に苦慮しているところが少なくない。地域性や住民の意識と連動しないまま、「ハコモノ」だけがひとり歩きし、魅力が持続していかないなど、さまざまに問題を抱えている。
 勝山のしょうゆ蔵の基本構想にあるのは、心から町を愛し、本気で町づくりに取り組む住民が運営の担い手となる点だ。「勝山の風土や文化財的価値を守り、自分たちが楽しいと感じるような町にしよう」。そんな理念のもと、部会ではこれまで専門家と膝をまじえ、非営利の立場で新しい町づくりをテーマにした勉強会やシンポジウム、大学院生らによる保存調査などを行ってきた。
 その一方で、のれんの町並みのきっかけになった「町並み保存事業を応援する会」の活動が、町の「元気」を盛り上げた。理論的な考察を片方にふまえ、ゆっくりと地域の付加価値と住民の気運を高めていく、そんなプロセスマネージメントの積み重ねが、強い基盤にもなっている。

「おひな祭りを実際にやってみて、確信を得たんです。各家が工夫を凝らして飾りつけを行い年々盛り上がっていく。自分たちの町をよくしていこうという住民のポテンシャルがとても高い」。
 年間に訪れる観光客は、8年前の7倍にあたる15万人に増加。町を動かす住民の意識に行政が動かされ、結果、町が建設費を投じ、2001年度から向こう10カ年で振興計画にこのしょうゆ蔵構想を盛り込むことを決めた。同年シンクタンク会社に依頼し、「町並み保存重点整備地区整備構想」としてマスタープランが完成。その中には、勝山にふさわしいものとして、「リーチミュージアム」「演劇ステージ&ワークショップ」「アーティスト・イン・レジデンス」「椅子の博物館」「建築職人塾」の6つの要素が盛り込まれている。むろん立案の決定は「行政」ではなく「町並み委員会」を通す。ここにも、民間主導(NPO)の原則が生きている。



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勝山らしい形とはなにか
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 今でこそ、公益活動は「お上」の仕事だが、江戸時代には寺が寺子屋を運営したり、商人が橋をかけたりと、「民間」が役割を担い、利益をもたらすことも多かった。
そして大店の「旦那」は、物を見る目と高い教養を備え、道楽に通じ職人や芸人を育てた。創業200年の老舗酒蔵の6代目当主である辻氏自身がそうであるように、「21世紀型の旦那」は新しい町づくりの大いなる牽引役となる。城下町として歴史を育んできた勝山には、町人には町人の心意気が、武士には武士の志が、時代を経て今も息づいているのかもしれない。

 交流体験工房のオープニングテーマは「椅子」。真庭塾塾長を努める中島浩一郎氏とかねてから親交が深かった建築家、故宮脇壇氏の名作椅子のコレクションを展開するとともに、木材の町勝山にふさわしい試みとして、木工アーティストたちによる椅子のコンペティションも同時に開催する。日本を代表する工業デザイナーに審査を依頼すべく現在交渉中だ。
「これまで我々の目指すレベルを実現するためにそうそうたる専門家やメンバーに関わってもらった。これだけの素材が集まってるわけだから、うまくやらないとばちがあたる」と辻氏は言う。
その横顔は、誰よりもこの町を誇りに思う、そんな矜持に満ちていた。

▲「町並み委員会」は、地域住民と町行政員により構成される組織。辻社長は、この会の委員長をつとめる。

2004年7月1日


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