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ここ美作の国にまつわるお酒の話や町の話題・蔵人のないしょ話・蔵からのメッセージなど、エッセイ風に皆様にお届けしていきます。
その五十一(2004年9月1日)

「自然と人が響き合う町」
一版画展&ワークショップ一



 町の喫茶店という空間は、地元の人の憩いの場であると同時に、情報の発信基地として、人と町をつなぐバリアフリーの広場のような役目もする。
 保存地区から鳴門橋をわたり5分ほど歩いたところにあるギャラリーカフェ、「カフェ てぁ」もまさにそんな存在。
「岸田真理子さんの版画展と合わせワークショップを開催するので、よかったら参加しませんか」。オーナーの栗田さんご夫妻のそんなお言葉に誘われて、8月のある日さっそくのぞいてみることに。子どもたちが集まり賑やかに行われた版画のワークショップと来勝されたアーティスト、岸田さんの横顔を今回レポートしてみました。


「こんにちは」。
「いらっしゃい」。
 浅黒く日焼けした地元の小学生たちや親子連れが次々と店を訪れる。いつものギャラリー&カフェが、この日ばかりは、夏休みのアート教室に早変わりだ。
テーブルには、彫刻刀や鉛筆、カッターナイフ、ばれんなど版画制作に必要な道具がすでにセッティングされ、人数が揃ったところから作り方の説明をうけ、いざ制作開始。やわらかな発砲スチロールのボードを使うので、3歳ぐらいの小さな子どもたちでも簡単に凹がつくれる。思い思いに絵を描き、油彩絵の具をのせ、ハガキサイズの用紙に転写すればできあがりだ。

 このワークショップは、銅版画家の岸田真理子さんが、自身の個展とあわせ「どこでも版画教室」と題し各地で開いているもの。アットホームな雰囲気の中、子どもから大人まで誰でも簡単に素朴で味のある版画づくりが体験できる。
 岸田さんいわく、後で見比べた時にダントツ面白いのは、子どもたちの作品の方だという。大人が頭でなにを描こうか考え固まっている間に、子どもはなんの先入観もなく思いのままに線を走らせる。「だから張りあわないでくださいね。絶対かなわないから(笑)」。子どもの実力というか、そのやわらかな感性を見せつけられ、大人はたじたじ…。それでも、なんとか刷り上がり形になると、今度は絵の具で色を足してみたり、いつのまにかその面白さに引き込まれ、童心に返っている自分を発見できたりする。
下手ななりにも自分の「作品」を生み出す作業は、日頃使っていない感覚を解放するようで、とても楽しいひとときだった。


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記憶の中の美しい
風景と出会う感覚
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 岸田真理子さんは、普段は大阪と香川県の果樹園を拠点に、版画やオブジェなどの創作を続けている。今回の個展を主宰した「カフェてぁ」のオーナー、栗田さんの招きで初めて勝山を訪れたのが昨年の秋。以来、勝山との行き来が生まれた。
 岸田さんの作品を初めて見た時のことを、栗田さんは「勝山の自然と通じるなにかを感じ、心を揺さぶられた」と話す。だからこそ大好きな自分の町をぜひ見に来てほしい、そして気に入ってほしいと思ったのだそうだ。
 ワークショップと同時に、約1ヶ月間開催された岸田さんの版画展「ようこそ果樹園Lifeへ」では、「生」の恵みを印象的に描いた美しいエッチングやオブジェが並んだ。一年の半分を果樹園で暮らし、畑仕事の日々の中から生まれたモチーフは、果物や鳥、空や風などの自然のイメージ。その向こうに、種をまき命を育みながら自然とともに生きる人たちへのあたたかな視線が見え隠れする。


 岸田さんの作品を見ていると、記憶の中の「美しい情景」とシンクロする。雨あがりの清々しい空気だったり、夕陽に染まる雲の色だったり、水の流れや川面に映る光の美しさだったり…。ディテールそのものよりも、まるで自然からのギフトを、一滴の香り高いエッセンスにふうじこめたような「いい匂い」がふわっと立ち上ってくる。深いところに沈んでいる潜在意識を呼び覚ましてくれるような独特の印象。そんな魅力を、岸田さん自身は「上手いとほめられることが目的ではなくて、見る人がしみじみとなにかを感じてもらうことがうれしい…」と謙虚に話す。

 展示された作品の中には、勝山に来てから描いたというものもあり、とても興味をそそられた。ちょうど季節は秋、雨で町が濡れていて美しかったという。
「その土地の自然の美しさは、勝手にできているものではなくて、住まう人の心根が作るもの。美しいのれんの揺れる町並みも、きれいな川の流れも、成熟した文化をもつ町の人たちの心のあらわれだと思う」。そんな風に勝山のことを話してくれた。

 来年もまた、勝山で岸田真理子展が開かれる。栗田さんは、岸田さんとはこれからも長くつきあっていきたいという。
美しいものを美しいと感じる心。それを分かち合い育むのは人。新たな出会いが、この町にまたひとつ増えたことをうれしく思う。


■岸田真理子プロフィール
1959年、鳥取県赤崎町に生まれる。京都芸術短期大學(現京都造形芸術大学)洋画コース専攻科終了、'86同大学洋画コース講師を'96年までつとめ、後フリーとなる。個展、企画展、公募展など数多く作品を発表。京展版画部門にて紫賞、西宮大谷記念美術館賞、西宮市長賞など受賞歴をもつ。'98年から香川県の果樹園よりアトリエを提供され「果樹園ライフ」シリーズの制作を開始。'97年3月より、筑紫哲哉のコラム(週刊金曜日)の挿絵作家に抜擢され連載をスタート。200点を超え、現在も連載中。



2004年9月1日


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