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ここ美作の国にまつわるお酒の話や町の話題・蔵人のないしょ話・蔵からのメッセージなど、エッセイ風に皆様にお届けしていきます。
その五十三(2004年11月1日)


右端の人、どこかで見覚えが…そう、御前酒蔵元の社長も“超”が付く祭男なんです。
毎年10月19日、20日に行われる、勝山の「けんかだんじり」は江戸時代から続く勝山の伝統行事。
「おいさあ、おいさあ」という威勢のいいかけ声と、凄まじいばかりの太鼓や鐘の音が響く中、向き合った二台のだんじりが、どんっ!と容赦なく正面からぶつかりあう。一年間のエネルギーのすべてをこの日に注ぎ込む男たちの熱気と迫力に、見るものすべてが圧倒される。この祭を知らずして、勝山は語れないのだ。

▲勝ち負けは問わない。押し引きが美しい一番に、「いまのはよかったなあ…」そんな言葉が飛び交う。


10月に入ると、各若連の詰所にだんじりが持ち込まれ、各部位の修復や組立てなど、夜を徹しての共同作業が始まる。男たちは仕事も忘れ、連日だんじりの仕上げに精魂を注ぐ。このころになると、勝山っ子たちの心は、言わずもがな祭りに向けヒートアップ。あちこちで、箸をもつ手が「チャントコチャントコ」と自然にリズムを繰り出し、この土地に育ったものにしかわからないアドレナリンDNAが体中をかけめぐるのである。

 けんかだんじりには、男の聖域たる雰囲気がある。昔は、その名の通り「死者も出た」ほどの激しい喧嘩もあった。2〜3トンを越すだんじりのその激しいぶつかりあいは、一瞬の油断が大けがにつながる真剣勝負の舞台である。
 今でも若連によっては、詰所に女性を入れないところもあるという。男衆と同じ半被を着て、おいさあ、おいさあ、とかけ声を合わす女の子たちの姿が見られるようになったのはここ数年のこと。たとえどんなに腕っぷしが強くても、女性が男性と同じように連に加わりだんじりを押すことは許されていないのだ。

「でも、鐘が鳴って気持ちが高まってどうしようもないのは、勝山に生まれた人間の性。男も女も同じ」と話すのは、お馴染み、のれん作家の加納容子さん。小さい頃から祭りを見て育った勝山生まれの女性たちにとっては、祭への内なる思いは並々ならぬものがある。そんな彼女たちにとって、けんかだんじりはいったいどんな存在なのだろう。




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祭には美学がある。おまつりってええよな
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「普段どうでもええようなおっちゃんたちが、祭になると死ぬほどかっこよく見える」。
そう力説するのは、勝山で生まれ育ち、岡山に嫁いだ今も祭りには必ず帰ってくるという岡田聖子さん。実は加納さんの娘さん。御祭礼には、母子揃って祖母から譲り受けた大島をキリリと着こなし、当日は上若連の半被に身を包み声援を送る。
「とにかく半端なことしたら怒られるんです。調子に乗って騒いだりしてると、いまのはなんならってゲキが飛ぶ。それもものすごい勢いで怒られるから、祭特有の縦社会の決まり事の中で、男の子達はあいさつが急に出来るようになったりする。でも、(そういう社会の中では)上の人から言うてもらえたりするのがうれしいみたいなところもあって、少しでも役に立てたりするとほんとうれしいんですよ」。 基本的に、女性の役割というのはないものの、男たちがだんじりの準備をしている間、女性が夜食や軽食、酒などを用意するというのはあるそうだ。しかし、あくまでも一歩退いたスタンスが基本。

 同じ町内で蔵人として酒づくりに勤しむ辻麻衣子さんは、あわよくば一緒にだんじりに参加して自分も思いっきり押してみたいと本音をもらす。
「なんで女に生まれたんじゃろって。くやしいけど、その気持ちを殺して控えるのが女の分というか…」。気にはなるけど女が必要以上にのぞきこむのは野暮で、でしゃばらないのがルール。主役はあくまで男たちだから、彼らを立てることに徹するのが粋と、彼女たちは心得ている。本番当日は、けんかの合間に男衆があおる酒を切らさないよう気を配る。さっと渡せると「役に立てた」という喜びでいっぱいになるという。息を合わせ、てきぱき動いてうまく景気がつくと、同じ若連として心がひとつになるようなそんな高揚感が味わえるのだ。


▲「ガキの頃に感じた理屈抜きの楽しさが今につながっとる。すぱんと当たってすぱんと退く、息が合った時がなんかかっこええと思う」。 ▲「中学生の頃は、憧れの人の祭姿を見るのが楽しみだった」

祭が近づくとうずうずし、少しでも何か手伝わずにいられなくなる。普段とがらっと変わる祭男の粋な風情にはそうさせるだけの魅力があり、問答無用のかっこよさがあるのかもしれない。

「だんじりは、歌舞伎や相撲に通じるものがあると思う。神聖なものだからやっぱり女が出てはいけんもんはいけん。わきまえるところをおさえて、男の人の役にたつように動くのが女の勤め」と聖子さんが言えば、「そう、私も女で酒づくりをしているからジェンダーフリーについて問われるけど、女がなんでもやっていいとは思わない」と麻衣子さん。

「でも勝山に生まれて心からよかったと思える。祭りはホントに私たちの誇りよな。女から見ても、毎年だんじりの人たちにありがとうございますって頭を下げて回りたいくらいです」と聖子さん。だんじりの思いが熱い人ほど、彼女たちの目には輝いて映る。麻衣子さんも「将来自分に息子ができたら絶対祭男にしたい」と言う。

 祭は見るものに、興奮とエネルギーを与えてくれる。でも外から見るのではなく、生まれ育った土地で、共同体の一員として祭を謳歌できるなら、そっちの方が人生においてよりエキサイティングで優位だ。彼女たちの熱い思いを聞いていると、祭がそのまま町の人みんなの「生きる力」になっているのがわかる。胸を張って自分たちの祭を誇らしいといえる、そんな精神文化をあらためてステキだと思う。



2004年11月1日


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